夫が亡くなった後、義理の両親や親せきとの付きあいをやめたいという思いや、夫と同じ墓に入りたくないなどの思いから、夫の死後に離婚と同等の効果をもたらすと言われる「姻族関係終了届」を提出する人が急増してます。
実際には、どのようなものなのでしょうか。
急増している死後離婚とは
巷で急増している死後離婚ですが、厳密には夫が亡くなった後、離婚届を提出することはできません。
一般的には配偶者の死後、「姻族関係終了届」や婚姻前の姓にに戻す「復氏届」を提出することにより、離婚と同等の効果となる手続きをすることを言います。
離婚件数が年々減少しているのに対して、死後離婚の件数は年々増加傾向にあり、こちらの表を見ていただければお分かりの通り、「婚姻届終了届」の提出件数ですが、平成22年度は1911件であったのに対して、平成27年の提出件数は2783件となっており、5年で約1.5倍にまで膨れ上がっております。
また特徴的なのが、その多数が女性側からの提出となっていることです。
そもそも姻族とは
姻族とは、配偶者の血族のことをいいます。
配偶者との婚姻によって、関係のできた義理の両親や兄弟などが姻族にあたります。
通常は、配偶者と離婚すれば、姻族関係も終了するのですが、配偶者が死亡した場合、当然に姻族関係が終了するわけではないのです。
すなわち、配偶者が死亡しても死亡した配偶者の三親等内の血族は、依然として姻族として関係が継続するのです。
どんな人が死後離婚を選択しているか
こちらのついては、正確な統計はでておりませんが、やはり多いのが、「舅・姑の面倒を見たくない」という理由です。
舅・姑はそもそも他人であり、遅かれ早かれ介護の問題が出てきます。
その時に、実の子である人たちが、ここぞとばかりに、要介護の親を嫁に押し付けてくるなんてことは、あちらこちらで聞こえてきております。
嫁にしてみれば、夫がいるからこそ、多少の面倒を見るのであり、夫の死後に夫の親の面倒を見る義理は、これっぽっちもないというのが本音でしょうか。
死後離婚を選択する人の中で、最も多い理由であると言われております。
その他に多いケースとしては、夫と不仲であった場合です。
そもそも不仲の夫と我慢して生活してきたのに、その夫が死んでからも同じ戸籍にいることは、通常考えられないでしょう。
また、若くして、配偶者を亡くした方の場合ですと、再婚に備えて死後離婚(姻族関係終了届と復氏届)を提出する方も多いようです。
亡くなられた配偶者には、申し訳ないが、新しく夫になる人やその親族との関係を大切にしていきたいという思いからのようです。
死後離婚するときの段取り
実際に配偶者を亡くされた方が採るべき手続きについて順を追ってみてみましょう。
姻族関係終了届
姻族関係を終了させるために必要な届出です。
こちらは所定の用紙に記入して、市町村の担当窓口に提出するだけです。
提出することができるのは、生存している配偶者に限られますので、逆に姻族の側から生存配偶者に対して、姻族関係終了届を提出することはできません。
生存配偶者からの届出する期間について、生存配偶者の生存期間中であれば、制限はございませんが、こちらの届出を一度提出すると、復活させることはできませんので、ご注意ください。
復氏の届出
姻族関係を終了させるだけでは、婚姻前の姓に戻りません。
姓を前姓に戻し死亡配偶者と戸籍を分けるには、復氏届を提出しなければなりません。
なお、子供がいる場合、子供の姓も変えて自分の戸籍に入籍させようとする場合、家庭裁判所に対して、「子の氏の変更許可申立書」を提出し、許可を得た後に入籍届を提出します。
例えば、夫が亡くなり、その妻が復氏届を提出しても、その子供は当然に妻の前姓になるのではなく、家庭裁判所などに対して、一定の手続きが必要であるということです。
また、こちらの復氏届と姻族関係終了届は全く異なる手続きですので、姻族関係終了届を提出せずに、復氏届だけを提出することも可能です。
祭祀財産の承継、死後事務委任契約など
生存配偶者が死亡配偶者の祭祀財産を承継していた場合、義理の兄弟など、他に祭祀承継すべき適切な人を探すようにしましょう。
また夫とは別の墓に入りたいという希望がある方は、生前から子供や葬儀代行業者に、自分ば希望する葬儀方法や埋葬場所などを指示して死後に希望通りに実行してもらう契約を締結しておきましょう。
葬儀方法については、遺言書を作成した際のいわゆる「付言事項」に記載する場合がございますが、付言事項への記載内容に法的拘束力はございません。
したがって、ご自分の希望する葬儀方法などがある方は、「死後事務委任契約」を締結することをおススメします。
死後離婚をした後の影響
死後離婚をしたあと、どのような影響があるかをしっかりと考えたい上で、手続きを進めましょう。
姻族関係終了の効果として、亡くなった配偶者の姻族(亡き夫の親や兄弟)の扶養義務や互助義務が消滅します。
少しだけ気を付けなければならないのは、姻族関係が終了した後でも、直系姻族との婚姻禁止規定は適用されるため、直系姻族との婚姻は認められません。
また、生存配偶者が死亡配偶者の祭祀財産やお墓の管理者となっている場合で、姻族関係終了届や復氏届を提出したときは、関係者と協議して、その権利を受け継ぐべき人を決める必要があります。
家族への影響
姻族関係を終了させても、生存配偶者と子供は、死亡配偶者の相続をする権利に変わりはありません。
また、子供は義理の両親の財産を相続する権利も持ったままで、代襲相続に全く影響はなく、子供に不利益が及ぶことはありません。
また、生前配偶者が遺族年金の受給資格を失うことはありませんので、姻族関係終了届提出後も継続して受給することが可能です。
姻族関係終了届だけを提出して復氏届を提出しない場合、生存配偶者の戸籍に姻族関係が終了した旨の記載がされることになりますが、氏が変わりませんので、普通に生活をしていく中では、届出をしたことが明るみになることはなく、誰にも気づかれません。
まとめ
ここまで読んでいただいた方のほとんどは、死後離婚にメリットしか感じないと思います。
しかし、愛する夫を家族との関係を継続させるというのが、民法の建前であることから、日本人が本来採るべき行動としては、配偶者の死後も継続して舅・姑の面倒を見ていくことなのだと思います。
しかし、時代は流れ、価値観の多様化により、これが正しいということはほぼ無くなってきております。
また、日本人の平均寿命は年々上がっており、世界でもトップクラスの長寿国となっておりますので、50代はもちろん、60代の方であっても、第二・第三の人生を選択できる世の中になっております。